光と影のワークショップ

オーストリアとスイスの国境のはざまにある人口3万7千人の小国、リヒテンシュタイン。冬は雪に覆われるこの小さな国に、経済と建築の学部だけを持つ大学があり、1930年代まで綿織物の工場だった建物を改築した気持ちの良いキャンパスがあります。東京芸大と提携校になっている建築科では毎年、留学生を交換しているのだそうです。


この大学で、毎年1月の始めに建築以外の分野から講師を招いてワークショップをするプログラムがあり、演劇家、グラフィック・デザイナー、彫刻家、テキスタイル・デザイナー、印刷の専門家、ミュージシャンなどと混ざってわたしも課題を出しました。「Light Made Tactile」というタイトルで「空間の中で光を感じ、それを増幅して他の人と分かち合うための装置をデザインして、作る」という内容。建築科の学部生、院生に混ざり、リヒテンシュタインにもう一校あるアート・スクールから若い予備校生たちが3人加わり、年齢も国籍も言語もまざった16人の学生との7日間でした。

学生は最初の数日で誰かとシェアしたい「光の効果」を発見し、それを再現する実験をする。そのテストの途中でだんだんと最終的にデザインするものの姿が見えて来て、成果物はいろいろなアプリーチから違ったものが出来上がりました。

小さな部屋に仕込まれた舞台を作ったグループは、椅子にカバーをかけ音楽も選んでリラクゼーションの空間を作った。近くの山から竹をたくさん切って来て、アトリエの中央に巨大な照明器具を作った学生。手で持ってビーズを転がして遊ぶ照明を精緻な設計とレーザーカットで作った二人組。スクリーンに影を写すパフォーマンスの道具もあった。コンセプチュアルで面白かったのが、光だけに焦点をしぼって校内を歩き回るためのゴーグルと、地図のセットを作ったアムステルダムからの大学院生たち。彼らは同じコースを普通に撮影したものとこのゴーグルをつけた2つのムービーを同時に見せ、気づかない場所にふわっと浮き出る光の反射や建物がもつ陰翳の楽しさを、そこで毎日過ごす人たちに教えたのでした。

わたしの役目は最初に光が空間にどんな働きかけをするかという例を挙げ、少しだけ建築やアートやデザインのサンプルを見せて「もっと楽しくなるよ」と学生のイマジネーションのスイッチを入れる。学生がアイデアを話し始めたら脳の中にあるものを見せて!スケッチとかモデルにならない?まだ、やりたい事がよく分からないけど、、、と具現化をうながし、実際のデザインが始まったら「余分な要素は『光』に集中するさまたげになる!」とディテールのリファインを勧める。そして、ゴールの見え始めたプロジェクトごとにどんなプレゼンが一番効果的か考える手助けをする。

「光を感じる」には冬のアルプス地方は適していないかも?と行く前は心配していたのですが、雪と青空と霧との壮大なショーを延々やっているようなロケーションで、学舎も古い木の梁とミニマムな仕上がりの改築部分のコントラストが気持ちよい場所。わたしにもスイッチが入ってカメラを手放せず、たくさんの光と影の写真を撮ったのでした。

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