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Monthly Archives: June 2008

前回に引き続き、D&DEPARTMENTについて。

ナガオカさんのさまざまな活動の中でもとくに評価するのは、出版やHPやブログでその考え方や活動のプロセスを広く世間に知ってもらおうとする、その努力です。これはとても根気のいる、しかも結果の見えにくいことで、長く続けてやっとその真価を計る事ができることだと思う。そして、自らの考えをまとめて整理し、行く先を考える時にとても重要な作業だと思うのです。

帰国するたびに、本屋で見つけたら買っていた彼らの雑誌「d」。


丁寧な取材の結果がレポートされ、今まで知らなかったことがいつも紹介されていて、楽しい驚きがある。ナガオカさんとそのチームの「ロングライフデザイン」に対するいろいろな角度からの考察と、その熱意にいつも感心しながら読んでいました。

特に好きだったのが、写真に撮った2冊。8号の『サンタクロースとは何か?』を読んで、不覚にも新幹線の中でぽろっと涙をこぼし、ルイス・カーンの言葉にボーゼンと車窓から過ぎ行く風景を眺めた。9号は、落ち込んでる時に読んだのでハッリ・コスキネンの笑顔に癒され、話題になっていた「PSE法」について学び、三國シェフの話の深さに打たれ、深澤直人さんのスピッツ評に思い切りうなづいたり(たまたま、数日前に偶然スピッツを聴いていたのです)して、読み終わる頃には元気になっていて、、、と、2冊丸ごと心から楽しんだのでした。

先日のお店訪問で何冊かまとめてバックナンバーを入手し、最新号の編集後記を読んだら、今までの形態では売れなかったので、休刊してリニューアルします、とあった。デザインが語られる時にそれが表沙汰になる「順番」についての考察が、そのままこの小冊子への自らの批評だったのは、象徴的なことかもしれない、、と、名残を惜しみつつも納得しました。大資本の力を借りずに20号も出版した、それは大変な事だったと思う。そこから利益が生まれなければサステナブルとは言えない、という判断。

正直淋しいですが、計画中の次の出版物を楽しみにしています。そして、日々考えていることを丁寧に記録し残し共有していく、その姿勢に学びたいと思う。そう、わたしがこのブログを始めたのも「d」に触発されての事だったのかもしれないと、今となっては思うのです。

イギリスの銀行で口座に関するエラーが続き凹んでるんですが、気を取り直して先月帰国してた時に行ったお気に入りの場所について書きます。

ナガオカケンメイさんがやっているD&DEPARTMENT。東京店に行きました。数日前に「情熱大陸」に出たようなので、今たくさんの人の噂にのぼって来客がひっきりなしかもしれないですね。

全国の埋もれたグッドデザインを発掘して蘇生させる独自のコンセプトはすでによく知られているし、わたしが紹介するまでもないと思うのですが、ここの醍醐味はレストランに詰まっていると思った。ぜひここでお昼を食べたり、お茶をしたりしてみてください。とっても懐かしい、誠実で温かく夢見がちだった頃の空気を思い出します。


カトラリーや食器も「品のある」業務用の、とても使いやすいものなのだけど、何にもまして美味しいこと! 岩手に自社の農園のあること、スタッフがそこで農作業の実習をしたりする事を知って、納得しました。下の写真はドライカレー。


シフォンケーキとメープルシロップのアイスクリームも満点。サイズの違う角砂糖が混ぜて入れてあって、好きな量を選べる。こういう細やかな気遣い、すみずみまで清潔なレストランと調理場、気持ちの良い店員さん達。うーん。志の高い人のまわりには、同じ気持ちを共有する優秀な人たちが集まるのだな、、と唸ってしまった。

規模の小さな会社の、心のこもった業務や商品がなつかしい。そういうものに触れると、幸せな気持ちになる。そういうマインドの感じられる仕事だけを集めているD&DEPARTMENTでは、だからこんなに心安らぐ空気が流れているのですね。良質のアルチザンの結晶とでも呼びたい、オアシスのような場所。デザイナーとして日々誰とどんな仕事をしていきたいか。「D&DEPARTMENTに置いてもらえるような仕事をしたいなー。」と、目標のようなものが出来たのでした。

それにしても、手のつけようのない程大きくなって、カスタマー・サービスに血の気の通わなくなった会社とは付き合いたくないと思う。できれば商品を買いたくないし、無責任なサービスに出くわすのも不愉快。どこかに、誠実でなつかしい空気の漂う銀行はないかなぁ、、、。

古い自転車を集めたり、修理して乗ったりするのが趣味な人が、実は世界中にたくさんいます。で、そういう人達が集まってレースをする会、というのもある。快晴の日曜日、西南ロンドンのHern Hillにある自転車競技場でそういうレースがありました。コレクター達と、ピクニック気分で応援に来ている家族や友人が、和気あいあいと集まって。

普通の路上では乗りにくい、レース用のペニー・ファーディングをサーキットで初めて試したわたしのパートナー。作られてから100年以上経っている自転車だけど、とりあえず走れるように調整できたみたいです。


一見ふつうの自転車レースですが、参加はすべて戦前の自転車。近寄ってみると「ほんとだ古い、、」と分かる。ガレージの片隅で、こういう古い物をこつこつと修理するのが趣味な人たちが、たくさんいるのは面白いですね。そして、直したら乗って走る。


車輪が木製の「Bone Shaker」と呼ばれる自転車も登場。 たしかに乗り心地が悪そうだ。

実はわたしも、レディースのレースにちょこっと出ました。Caminargentというフランスのメーカーの1941年製のアルミフレームの自転車で。それが、今までのサイクリングやウォームアップでサーキットを何周かした時はなんともなかったのに、レースでちょっと真剣に飛ばしたら、後ろの車輪がぐらぐらに揺れてそれがハンドルまで伝わって、ものすごく怖かった。


結果はビリ!ヴィンテージ自転車ファンからは絶賛のレアなものらしいけど、「ちょいと角までパンを買いに行くための自転車だから、もともとレース向きじゃないんだよ。」となぐさめられたのでした。まぁ、マシーンの問題だけじゃなく、わたしの脚力もぜんぜんダメですが。

「銀ちゃん2号」という愛称のこの自転車で、今月末にベルギーである「レトロ・ロンド」というサイクリングに参加します。20年以上古い自転車で、服装もレトロな人のみ参加というツーリング・イベント。今度はゆっくり走ります。

土曜の夕方から、肉類卸し市場のSmithfield周辺で自転車レースが開催されました。Smithfield Nocturneと呼ばれるこのイベントは去年始まって、いろんなカテゴリーのレースがある。その中でわたしのお気に入りは「折りたたみ自転車レース」です。

別名「ロンドン通勤者レース」のこの競技のルールは
1)折りたたみ自転車で参加
2)ジャケット、ネクタイなど通勤服を着用
3)ヘルメットをかぶること
4)折り畳んで置いた自転車まで10m走り、そこで自転車を組み立てて漕ぎ始める


これだけたくさんの折りたたみ自転車を一度に見るのは珍しい。カンタンに組み立てられるけど走りは遅い自転車とか、組み立てに時間がかかるけど走り出したらぶち抜きできる高性能とか、いろんなメーカーの特徴も見えます。


この二人が一位(右)と二位。とりあえずネクタイしてるけど下半身はレースパンツだし、かなり鍛えた足だよね。予選を勝ち抜いて最終レースに出たサイクリストの順位と自転車の種類がこのサイトに載ってました。
http://www.smithfieldnocturne.co.uk/foldingbikerace.html
こんなマジなレーサーもいるけど、半分くらいは本物の「通勤サイクリスト」。蝶ネクタイをしたビール腹のおじさんとか、タイトスカートにハイヒールのお姉さんも出て観客の声援を受けていました。

わたしの街乗り用の自転車は、このレースでたくさん見かけたBrompton。2年前に最初に乗り始めて自転車の楽しさに目覚めたきっかけでもあります。


これは一度折り畳んでセルフスタンドにしているところだけど、あと2回折り曲げて、サドルポストを縮めてロックするとコンパクトにまとまる。その様子はブロンプトンのオフィシャルサイトに載ってます。地下鉄に持って乗れるほど小さいのに、しっかり走る。わたしのは部分的にチタンフレームで軽量化した3ギアで、小さなタイヤなのにかなりの速度が出ます。

来年までに少し体力をつけて(5キロを全速力で走りきる自信はまだないから)、この愛車で「通勤者レース」に出たいなと思っているところ。スピード出したまま、コーナーで転ばないように曲がる練習をしておいたほうがいいかな。あとは、ネクタイを調達して、、、。

あまり天気の冴えなかった日曜日。ロンドン北東郊外のCapel Manorというガーデンスクールでいろいろなテーマで作られた庭を見ました。整いすぎているのよりも少しダラけた、野性味すら感じられる庭がわたしの好みです。


そして、小さな花が好き。
何枚かお気に入りが撮れたので、拡大して見てみてください。

前回の河井寛次郎記念館のことを書いていて、この春に訪れたバーバラ・ヘップワースのアトリエを思い出したので、続けて紹介します。


なんといっても、庭。「Museum & Garden 」と呼ばれているくらいなので。手が入っているけど、よい感じに自然味の残された庭。そこに彼女の作品が点々と置かれています。母屋から、一旦庭に出てアトリエに入る。


ここは「思索室」。河井邸での庭を眺める茶室にも通じる、光溢れる温室。


こちらは制作室。扱う素材もさまざまだったので、かなり広い。石彫のコーナー、石膏や粘土の場所、それを鋳型にする作業机など。ここも天窓から光がさんさんと入る。使われている道具や物の置き方など、乱雑な中にも美意識が徹底しているアトリエ。


エントランスの上の階、母屋の一角にあるサロン。小さめの作品を置くギャラリーでもある。元夫で2人の娘の父だったベン・ニコルソンの作品が掛かっていたり。

住まいとアトリエの適度な距離感、表通りからはほとんど何も中の様子をうかがえない素っ気ないほどのたたずまい、中に入ると気持ちよく広がる庭と手作業で作られたり集められたりしたお気に入りの物たち。そんな場所を、家もアトリエも庭も、長い時間をかけて丁寧に作っていったのだなあ、と想像する。数々の作品の背景に、この楽しくも地道な作業も隠れていたことに思いを巡らせる。こんなに心惹かれるのは、それがわたしのやりたい事だからですね、きっと。


この奥に、あの庭が広がるとは想像もできない入り口。Tate St. Ivesの別館として公開されています。この夏にはバーナード・リーチのアトリエも公開になるそうです。


アトリエを出て5、6分歩くと海辺に出る。こんな風景を間近に見ながら制作していたなんて、、、いいなあ。