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Monthly Archives: August 2008

『サスティナブルを伝えるデザイン』というタイトルで、東京ミッドタウンのデザインハブにて日本産業デザイン振興会(JIDPO)主催のワークショップを開きました。講師として参加し、企業に勤めるインハウスデザイナーと千葉大学の大学生、留学生をふくむ大学院生の総勢24名と出会い、意見を交わすことでたいへん刺激を受けました。

以下は、大伸社がJIDPOのためにまとめ、design-hugというHPに掲載したワークショップのレポートです。HPの閉鎖を機に、内容をここに転載します。

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『サスティナブルを伝えるデザイン / Design, which delivers sustainable thinking』

プロダクトデザイナーの安積朋子氏を招き、日本産業デザイン振興会(JIDPO)主催のワークショップが開かれた。

今回のワークショップは、海外で活躍するデザイナーに『自国外でデザイン活動をするための考え方』を学ぶという目的のもと、2007年度よりJIDPOインターナショナルリエゾンセンターと千葉大学によるコンソーシアムが行っている。

リエゾンセンターの「クリエイティブ能力開発研究会」の社会人メンバーと学生の混合型ワークショップは、アジア人財資金構想の活動のひとつとして、産学協同の新たな取り組みとして注目されている。

今回は、サスティナブルをテーマに8月20、25、26の3日間、ロンドンに拠点を置いて活躍する安積氏がファシリテートを務めた。
日本産業デザイン振興会:http://www.jidpo.or.jp
アジア人財資金構想:http://www.ajinzai-sc.jp/

デザインにはコミュニケーションを助ける力がある、と安積氏は言う。ハイブリッド車しかり、技術を含んださまざまなデザインによって、我々は環境の変化を体感することができる。世界各国を巡り、ものづくりの現場に携わるうちに「デザイン的にも寿命的にも息の長いモノづくりをすることの必要性」を感じるようになった、と安積氏は語る。消費が先陣を切る時代から、持続を考慮しなくてはいけない時代にすでに突入している。それに伴い、デザイナーの在り方も変化を迫られつつある。これからのデザイナーは、よりリサイクルしやすい素材などの規格選定から提案できるような、プロジェクトのリーダーになっていく必要がある。

「サスティナブルをデザインの力によってどう体感・共感できる形に置き換え、より多くの人に伝えることができるか」をこのワークショップの機会を通じて考えて欲しい、と安積氏は語った。

今回、安積氏がミッドタウンをワークショップの舞台に選んだ理由もそこにあった。東京ミッドタウンは屋上緑化や太陽光に連動したブラインド自動制御、窓際照明の自動調光システム、内装材への竹材採用など、環境に配慮した取り組みが多くなされている。しかし、そのことを認知してミッドタウンを訪れている人は少ないのではないだろうか。

そんなミッドタウンで、来場者がサスティナブルな取り組みを体感できるように施設をデザインすること、それが今回のテーマだ。

ワークショップ一日目は、安積氏から今回の目的についてオリエンテーションが行われた。このワークショップでは参加者がそれぞれグループに分かれて、施設内を自由に使いプレゼンテーションを行う。

カシオ計算機株式会社、キャノン株式会社、コニカミノルタテクノロジーセンター株式会社、セイコーインスツル株式会社、TOTO株式会社、富士ゼロックス株式会社、富士通デザイン株式会社といった企業7社のインハウスデザイナーと、千葉大学のデザイン系学部生、海外からの留学生など総勢24名が参加した。

二日目は、各グループに分かれて安積氏のアドバイスを受けながら基本構想を打合せ。方向性やイメージは固まっているが、何を媒体とするかの選定に難航しているグループが多く見受けられた。

さすが、プロのデザイナーが集まっているグループは意見のまとまりも早く、プロトタイプまで作成してきたところもあった。「普段取り組んでいる企業人としてのデザインから、今回は個人のアイデアが試される場。他メーカーとも交流ができ、良い刺激になる。」とメンバーの一人は話してくれた。

翌日の発表に向けて、参加者たちの打合せは夜まで続いた。それぞれ環境も経験も異なるものづくりのエキスパート達が意見を交わし、どのようなアウトプットが生み出されるか楽しみである。

ワークショップ最終日には、この三日間の取り組みがグループごとにプレゼンテーションされ、フィードバックが行われた。講評会にはミッドタウン関係者も参加し、多方面からの意見や質問があがった。
以下に、そのプレゼンテーションの様子を紹介したい。

【Group1】「サスティナブルな素材を選択する価値」の見える化

「『サスティナブルな素材を選択する価値』の見える化」と題した、竹が随所に使用されているミッドタウンの特徴を活かした提案。成長の早さから、新たなサスティナブル素材として注目されている竹。これをディスプレイに使用しているスペースと、店内で売られている竹製品のつながりを明確にすることで、サスティナブルを可視化しようという試みだ。

すでにある竹のディスプレイとフロアライトを活かし、竹の形をかたどった紙製スタンドに竹の箸やヘラを配置できるよう設計。当初、竹でつくる予定だったスタンドを、紙製のプロトタイプを使ってシミレーションしたことで、ライトの影響や周囲の素材とのバランスを確認することができた。これにより、「竹を使用するよりも紙などの素材を使った方が効果的なのではないか」などの意見があがった。こういったあたりに、ワークショップの妙味があるように思う。

【Group2】サスティナブルな気付きを導くオリジナルグッズの提案

ミッドタウンの新しいオリジナルグッズで、「サスティナブルな気付き」を導こう。前日に、いち早くプロトタイプをつくり上げていたグループからの提案だ。グッズをデザインすることで、ミッドタウンに来場していない人へもサスティナブルな気付きが広まっていけば、との狙いがある。キーとなったのは植物の「種」。

一つ目のプロトタイプはポストカードに種を埋め込み、そのまま庭などに植えられるというもの。育った花の写真をミッドタウンで公開できるようにすることで、参加型の取り組みへの展開も提案された。もう一つは、シャボン玉に種を含み、遠くへ飛ばせるタイプ。実演に悪戦苦闘する一幕もあったが、プロダクトデザイナーならではのユニークな発想と製品構造に注目が集まった。

【Group3】サステナブルなフロア・プランの提案


役立つ情報源のはずなのに、必要な情報をくみ取ることが容易でなく、最終的に捨てられてしまうもの。そんなフロアガイドマップをサスティナブルにデザインしたグループである。

既存のマップは一冊にあらゆるジャンルの情報が掲載されており、必要な情報を選び取ることが容易でないのでは、との意見から、新たなコンセプトとして「リユースできるマップ」「目的ごとに選べるマップ」を提案。厚手のトレーシングペーパーでできたマップをフロアやカテゴリごとに数種類作成し、重ねることで館内の全体図が把握できるように設計。また、固い素材を使うことで使用後は回収ボックスへ返却し、再利用できるようにした。

来場者自ら回収ボックスへ返却し、リユースされている事実を明確に認識することが、この提案の一番サスティナブルなポイントである。自発的な気付きが最も大きな影響力を持つ点をうまく導いていると感じた。

【Group4】捨てないチケット – ミッドタウンの木の葉を使う提案


緑豊かなミッドタウンの大量の落ち葉。サントリー美術館や21_21 DESIGN SIGHTなどのアートギャラリーのチケットやレシート。これら日々廃棄されてしまうものを使って、「『捨てる』から『還す』へ、意識の変化を導こう」との提案があがった。


ミッドタウンの落ち葉に印字し、穴を開けてチケットにしたり、レシートにしたり。来場の記念に持ち帰っても良いし、回収場所を印字すればリサイクルシステ ムもアピールできる。また、持ち帰った落ち葉の種類を調べるなど、自然への関心を引き出すきっかけにもなり得る。チケットをつくるワークショップを開催し て子どもも楽しめる催しに、という提案にはミッドタウン関係者からも注目が集まった。

【Group5】イベント『とりかえっこしよう』の提案


「TORIKAEKO」と題した、お互いの持ち物を想い出と共に交換する参加型イベント。

サスティナブルの意識を浸透させるコミュニケーションデザインの提案だ。物だけでなく相手の想いも受け取ることで、より物への愛着がわき、大切に扱うこと ができる、というもの。イベント会場にコーンを設置し、吹き抜けなどからでもイベントの様子に気付けるようにすることで、更なる参加者の輪を広げようとの 狙いもあった。サスティナブルな新しい何かを作り出すだけではなく、今あるものを大切にすることで持続させていこう、という試みが印象的であった。

【Group6】ミッドタウン・ピクニック+


「ミッドタウンでピクニックをしよう」

都心にありながら緑に恵まれたミッドタウンの環境を活かして、リフレッシュを通じたサスティナブルな気付きが提案された。「人との関わり」や「自然」など複数の要素を含むピクニックと、「ファッション」「食」「ショッピング」などのエンターテイメント性に優れたミッドタウンの共通点を合わせた、コミュニケーションの新しいかたちだ。


ミッドタウンを訪れたら、まず受付でピクニックセットをレンタルし、フードコートで自由に中身をセレクト。トレイをリユースできるのでゴミが削減でき、館内施設を併用できるので活性化につながる。今ある環境を活かして施設同士の相乗効果も期待できる、今後の広がりを感じさせる提案だ。

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ワークショップを終えて、あるデザイナーは「企業の中でもサスティナブルという考え方はすでに浸透しており、開発の際にも考慮はされている。しかし実際の 使用現場に立って、ここまでサスティナブルを中心に置いて取り組んだことはなかったので、良い勉強になった。」と語ってくれた。


安積氏に今回のワークショップを振り返っての感想を尋ねた。

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今回は「共有する」というアクションがとても重要なポイントだったと思います。まず「サスティナブル」という言葉に対して、いろいろな体感の温度差がありますので、これを各自が日頃どのように考え、どう行動しているかを話し合い、それぞれの意識を共有しました。そして、「サスティナブルに対するポジティブなイメージ」をフィールドを通して広く人に伝えるために、どうやったら「感じて」もらえるかを考え、デザイナーという職能をくぐらせクリエイティブに仕上げていきます。

その中で「デザインされたものやスタイルを持った企画は、共有したいサスティナブルな考えをより身近に感じさせるパワーを持っている」とデザイナーが胸を張って認識できたなら、このワークショップの成果が期待できると考えていました。

各グループのプレゼンテーションは、そういった大切な「とっかかり」を参加者で共有できる、洗練の可能性を感じさせるものだったと思います。

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プロジェクトにおけるデザインの位置のひとつに、発信者が伝えようとしていることをサポートし、より伝わりやすく変換の手助けをする、というものがある。そのためにまずは現場に出て、ユーザーと同じ視点に立ってみることがとても重要なのだ。じっくりと時間をかけて土台をつくり上げれば、時を経ても揺るがない確かなものが生まれる。それこそが持続可能性を秘めたものづくりなのではないだろうか。

サスティナブルというテーマを通じて、新たなかたちでものごとを伝える「デザインの可能性」を感じることができたワークショップであった。

(text:Haruka Yanagisawa/photo:Kei Sugimoto)

今年の1月に、スタジオの裏庭にコンポストの場所を作った。「コンポスト」とは、畑作りなどに使う有機堆肥のことです。

フタつきの、逆さまにしたブリキのバケツみたいな容器がコンポスト・ビンです。底板はなくて中のものが直接土に乗っているので、ミミズは底から自由に出入りできる。ここに、キッチンで出る野菜くずや再生紙の卵の箱、段ボールの切れ端、植物の葉を刈ったりしたものをどんどん入れて時々かき混ぜると、バクテリアの働きで分解され、7〜8ヶ月後には栄養たっぷりの土になる。底の右手にあるドアみたいなのを上に引いて、出来た土を底からかき出す仕組み。

これは、画期的です。

なにしろ、ゴミが減った。以前は週に2回はくくって出していた20リットル袋のキッチンのゴミは、なんと4分の1に減った。今では2週間に1回しか出さないので、夏場は臭くなるから容量の小さいものに替えようと思っている。よい土をつくるためには「茶色系」の紙や枯れ葉を生ゴミとほぼ同量混ぜないといけないので、トイレットペーパーやキッチンペーパーの芯もすべてちぎって入れる。コーヒーのかすやお茶の葉、ティーバッグもここへ。郵便物の封筒や梱包材も、漂白のされていないものはここへ。

野菜の洗い方も変わった。せっかく野菜についてくるオーガニックな土が下水に流されるのがもったいないので、にんじんやじゃがいもはまずピーラーで皮を剥いて、土のついた皮をコンポスト行きの紙バッグに移してから、水洗い。

気温の低い冬場はあまり生物分解が進まないので、あっと言う間に「素材」がビンの中に積もり、これだと2台目がすぐに必要になるなあ、、と思っていたら、気温が緩むとビン全体が発酵、分解の熱で温もり、中味がぐんぐん減り始めた。分解が進んで完全に土になる頃には、容量が元の素材の75分の1になるのだそうです。ビンの中は臭くなる事はなく、湿った土の匂いがしている。

そして先日、ようやく土になったこの肥料を使い始めたのです。中庭で育っているトマトとかぼちゃの鉢に、この土を足してみた。 栄養価のほどはまだわからないけど、今まで焼却場まで運ばれて燃やされていたゴミが、こうやって微生物の力を借りるだけで「使える土」になる、自然の循環システムは素晴らしいなぁ、と思う。

わたしのスタジオに来るインターンシップには、スタジオのHPからリンクがあるコンポスト・ガイドを読むように伝える。だって、知らないで野菜を大きいまま放り込んだり、チーズのかけらを入れたりしたら困るのもの。

ある記事に、コンポストの栄養バランスを整えるよい素材のひとつは「髪の毛」とあった。排水管のつまりが心配で、今までも抜け毛は流さないで集めていたので、これをコンポストに入れてみる事にした。こうやって有機肥料に足すなら、薬剤を使ったヘアカラーはもうやらないほうがいいかな、、、。でも、そこまで考えるなんてちょっとマニアック?と我ながら思ったのでした。

野菜を育てている人には、分かってもらえるでしょうか?安全で元気なのを育てたいですものね。写真は鉢植えのプチトマト。夏が終わる前に、赤くなれ〜。


Vitra Design Workshopに持って行ったパタゴニアのサンダルは、正解でした。コルクの底が足に馴染んで脱げにくく、底がしっかりしているので砂利道や草原も歩きやすい。空気が通って涼しく、朝露の冷たさなんかもちゃんと感じられる。感触が楽しいので、わざと草原をつっきって歩いたり。

イギリスの森では夏でも「muddy boots」を履かないとどろんこになるから、その感覚で厚底のトレッキング靴を持って行った時は、同じ場所でも歩いた印象がずいぶん違った。スニーカーの底が薄すぎた年、ビーチサンダルで指の股にマメを作った年などを経て、4度目にして初めて、ふさわしい足元で一週間を過ごしたなー、と思います。

ロンドンに戻り、まだ枯れ草のついているこのサンダルを履いてあの空気を懐かしんでいるのだけど、どうもしっくりこない。スタジオでは足元が冷えて落ち着かないし、外を歩くと横滑りする。なぜ?と思ったら、歩く速度がまったく違っていたのでした。あんまり治安のよくない仕事場の近所では、せかせかと先を急ぐ歩き方になっているみたい。

場所と靴の関係は、歩いている表面の質感や温度や湿度だけではなく、どんな気分で歩いているかも関係するのですね。まさに夏休みの足元だったんだ、このサンダル(仕事してたんですけどね)。

I took this woven sandal to Boisbuchet, at Vitra Design Workshops this summer. It was so appropriate and I had different experience from other type of shoes I took early years. Thick soled tracking shoes did not give me nice moisture impression from walking on wet morning grass fields. So, I walked wherever not surfaced, enjoyed temparature, texture and hairy grass on my feet.

Now, I am back to my studio in London, wear these shoes and miss the atmosphere of Boisbuchet, but they do not react in the same way – I feel cold from foot in my studio, also slippery when I walk neighbourhood in this pair. Why? I realise that speed of walking is much faster in town, esepecially in rough quarter of London. I am not totally relaxed here, so this pair of sandales are for special occasion. It was perfect at Boisbuchet.

Vitra Design Workshopの続きです。

この場所が特別なのは、たくさんの国からいろんな夢を持った人が集まって「デザイン」をキーワードに濃い時間を過ごす、その集合場所だからだと思うのです。さまざまな背景を持つ人たちが、作品を通して他の文化を体感し、いろいろなものを「exchange」する。


場所そのものにも「exchange」がある。フランスの片田舎の農場で、柳宗理さんのエレファント・スツールが迎えてくれる。遠く日本でデザインされた家具が、何年ものちにドイツの会社から発売され、ここの風景のひとつになっているののを見て、最近読み返した本にあった柳さんのスタジオの写真を思い出しました。中庭でそのスツールを重ねて作業しているのはイギリスで学生をしているドイツ人。


「風の模様」を作ったのはアメリカに住む韓国人と、スペインに住むメキシコ人とノルウェーから来たデザイナーの3人。異文化の中で切磋琢磨してる人は、共同作業のやり方が柔軟で、自分の意見もしっかり言う。「かわいい子には旅をさせろ」というのはこの事だな、と思ったり。この3人は趣味がうまく重なったようで、始終楽しそうにいろんな実験をしていた。出来た作品をみて「日本的!」と言った人がいたけど、、、不思議なものです。


このうちの一人メキシコ人のXimena(ヒメナ)はわたしと同世代で、高岡にある富山デザインセンターで10年ほど前に留学生研修をしたとのこと。わたしも以前、富山県氷見市の街灯をデザインする仕事でセンターのお世話になったことがあり、その工房の頼りになるエンジニア「Yoshida-san」のことを、時空を超えて二人で懐かしく話したのでした。

その時に浮かんだ言葉が「文明の交差点」。
たくさんの人の、いろんな体験や知識から繰り出されるアイデアやインスピレーション、想い出やワクワクがふと足を止める場所。今まであまり知らなかった国のことに興味をもったり、友だちができたりする場所。

面白かったのは南米の人たちとの出会いでした。

選抜を勝ち抜き国費でワークショップに参加しているメキシコ人の女の子たちは勤勉でした。チリ出身でバルセロナに住み秋からはローマで仕事が決まっているという女性は、ティーンエージャーの娘をその父に託し、一週間おおいに羽を伸ばしていた。タティアナというロシアな名前でアジアな顔だちの女の子は、日系ブラジル人。日本語は話せないからわたしとの会話は英語で。でも彼女がポルトガル語で一生懸命アイデアを話すと、スペイン語圏のメキシコ人やスペイン人にはちゃんと通じるのです。みんなまとめて、元気だったなー、南米の女性たち。振る舞いはラテンなんだけど、どこか懐かしい感じのする顔だちと小粒な体型。みんなよく飲み、よく話す。


工房のアシスタントや調理場の手伝いをしていた若いデザイナーたちは、ひと夏ここに滞在して工房やキッチンで働いて、いくつか自分もワークショップに参加する、 という交換条件のボランティアのような人たちで、いつもながら気持ちのよい若者が集まっていました。写真のスクーターは、そのうちの一人が実家から持って来た旧東ドイツ製。彼は、照明デザイナー、Ulrike Brandiが連れて来ていた3人の小学生に竹で笛を作るやり方を教えてあげたり、夕食後のバトミントン・トーナメントのトロフィーを彼らが作るのを手伝ったりする素敵なお兄さんでした。

3位のトロフィーは今、わたしのスタジオに飾られています。ダブルスを組んだリバプールの建築家Robert Kronenburgのオフィスに、いつか持って遊びに行く予定。

フランスの田園地帯にある農場でVitra Design Museumのデザイン・ワークショップをやってきました。アシスタント2人と、9カ国から集まった14人の参加者と一緒に過ごした1週間。


Boisbuchet(「ブワブシェ」と発音します)と呼ばれる場所。今回で4度目なのだけど、遠くからこのお城が見えはじめるとわくわくする。泳げる湖があり川も流れていて、菜園や牧場があって馬やロバがその辺りにいる。そして、敷地内には今までのワークショップで作られたり、建築プロジェクトとして建てられた小屋や家が点々と在ります。坂茂さんの紙管の小屋もあります。


一日目の朝の工房の施設紹介。この週は建築と照明とデザインの3つのワークショップが並走して、それぞれ15人ずつぐらいの参加者。ワークショップの説明や共通の言語は英語。でもあちこちで、いろんな言葉が飛び交う。メキシコからたくさん参加していてスペイン語がいちばん優勢。次が韓国語、そしてドイツ語の順だった。日本からの参加はなし。これは初めてのことで、ちょっと淋しかったです。下は工房アシスタントの3人が機材や材料の説明をしているところ。


暑すぎたり雨が降ったりすると作業をする場所になる巨大な納屋。 下の写真は、その床に並んでいる参加者の作品の一部です。木陰にロープで吊したペンが風に揺られて模様を描く、というもの。場所と時間とそこに流れる空気を切り取った模様が美しい。

今回のワークショップは「Air Made Visible」というタイトルで、この場所に身を置いて感じた要素を、目に見えたり体験できる物や装置に置き換え、他の参加者がそれを追体験する、というテーマ。出来上がった作品をみんなで鑑賞したり触ったり遊んだりするのももちろん楽しいのだけど、そこに行き着くまでのプロセスで得られるいろいろな発見がとても大事だし、場所にふさわしい素材と形を与えると成果物がとても「心地よい」ものになることを、あらためて感じたのでした。ワークショップを通して参加者に何かを伝えられるとしたら、そういう発見の楽しさと自分の作ったもので心地よく遊ぶその快楽なのかもしれない、、、と。


たった独りのフランス人は地元出身のシェフ。腕をふるってくれ、シュークリームとかアップルクランブルとか、スイーツも今まで以上に充実していた。菜園から野菜を収穫して、これがサラダになるのです。総勢80人ほどになる朝昼晩の食事。天気がよかったので、ずっと外で食べた。ゴングが鳴ると、工房や納屋、草原や湖からみんながここに戻ってくる。


木陰で制作。出来上がったのが下の写真です。彼女はちいさな草花のデリケートな構造に魅せられて、それを拡大し、花弁の中を歩き回る虫の気分になれるような風で動くオブジェを作った。


これも作品のひとつ、籐で編まれた直径1メートルぐらいのボール。風が吹くと草の上を優雅に転がっていく。風景と一体になって、これもとても「Air Made Visible」でした。

自然の中で1週間過ごすと、帰りに寄った空港のある街Poitiersですら、ホコリぽくてがちゃがちゃした、視覚ノイズの多い場所に感じられて驚きました。スタジオに戻ってすでに4日目なのに、まだぼーっと、草の匂いや朝露が足に冷たかったあの感じを思い出している。たくさんの笑顔と語られた夢とプレゼンの時の緊張感を思い出す。写真を見ては「また、どこかで会おうね」と微笑んでしまう、Boisbuchetはそういう魔法のかかった場所です。