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Monthly Archives: May 2011

震災から2か月後の5月中旬、わたしはまた日本に行きました。海外ではあまり報道されていない、避難所での生活での様子、急ピッチで進む仮設住宅の計画、もっと時間がかかるであろう復興の各地でのプランや団体の動きを聞いたり見たりしました。

そして、実際に現地に行った友人の話やニュースでの報道を見て強く感じたのは、被災地での「心のケア」が、復興のいろいろな側面で今から必要になる、ということです。

家族や友人を失って呆然となった被災者たちも、すぐに将来のことを決めて前に進んでいかなければいけなくなる。目の前で流されていく人たちを見て、助けられなかったと自分を責めていたたくさんの人たちも、気を取り直して今からの生活を立て直す時期になっている。

日本には、プロのカウンセラーに自分の体験や気持ちを話し、専門家の知識を使って「心の復活」を助けてもらう、ということがあまり一般的ではないと思うのですが、今こそ、たくさんの「心の専門家」が必要とされている時だと強く思いました。

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カウンセラーがどんなふうに「効く」のか、わたしの例を少し話してみたいと思います。

この写真はロンドン北西の郊外、Stanmoreという場所にある小さな森です。この森を幾度もくぐり抜けてカウンセラーの元に通ったことが、わたしの今の生活を支えています。6年半前の2004年の秋に初めてカウンセラーに会いました。20年一緒に暮らした元夫との関係がうまくいかなくなり、生活と仕事のパートナーシップの両方を同時に解消するという場面に直面して、完全にうろたえていた時に紹介された「職業の関係する離婚問題」の専門家でした。そして、自宅の一室で、紅茶をいただきながら話をするカウンセリングが始まりました。

いつも2人で行動した日々から急に一人になり、何から何まで自分で決定して打ち合わせにも旅行にも独りで行くようになった時、はじめて、自分がパートナーとの共存に慣れ、依存し、その関係の中で生きていたことに気づきました。最初の頃はたびたび頭の中が真っ白になり、何をどう決定するべきか、今日まず何をしたらいいのかすら、彼女に助けてもらわないと思いつきもしなかったことを憶えています。

最初の1年は毎週通って2時間ずつの「応急措置」をほどこしてもらいました。相談することは、山ほどあったのです。

まずは一度、どこかに逃げるべき?それとも現場に踏ん張ってがんばるべき?
将来のことが不安で眠れない時はどうしたらいい?
運転中に急に悲しくなって、注意散漫で事故を起こしたらと怖いのだけど、、?
ビジネス相手に「パートナー解消」について感情的にならずに説明する方法は?
独りでスタジオを続ける自信はどうやったら生まれる?
そもそも、どこでどう間違えて結婚を維持出来なかったのだろう?
こんな「失敗」を抱えたままで、社会はわたしを受け入れてくれるのかな?

少し落ち着いてからは2週間に一度からひと月に一度、その都度1時間半会って、今感じていること、何かをきっかけに起こった感情の変化など、生活と仕事のすべてに関わってくるいろいろな感情と向き合いました。

孫を期待していた親は、今どんな気持ちだろう?
ひとりぼっち感がなかなか去らないけれど、どうしたら楽になる?
見ると悲しくなる、山のように残った二人の写真はどうするべき?
知らずに元夫のことを聞く人に、相手を動揺させないで離婚のことを話すには?
急になれなれしくなった隣人に「あなたは必要ない」と分からせる方法は?
自分の性格を変えないと「次の出会い」なんてないのでは?

時間の経過とともに変わっていく心の動きを受け止め、前向きに将来のことを考えるやり方を、たくさんの専門知識を動員してゆっくりとあせらず手ほどきしてくれたこのカウンセラーの助けがなければ、スタジオをもう一度立ち上げスタッフに恵まれ、今のパートナーに出会って、、、という今の生活を手に入れていなかったかもしれない、と本気で思います。仕事を諦めていたかもしれないし、逆に仕事に没頭して「生きること」を忘れていたかもしれない。

わたしが学習したのは「バランスを考えた生き方」そのものだったと思うのです。

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離婚という、半分は自分に責任のある別れでさえ、毎日の生活をうまく回せないほどの「感情の揺れ」を体験します。地震と津波で突然、家族や親しい人を失ったたくさんの人たちは今、想像する以上に大きな心の傷を負って毎日を暮らしていると思います。家族や友人を助けられなかった、という自責にかられている人もたくさんいます。しかも、その後の被災地や避難先での生活では、助けられているという遠慮から、自分の心の中の葛藤を表に出さずに抱えこんでいると思うのです。

もちろん、物資が被災地に届くことが何よりも優先されるべきだし、今は街の復興が計画されている時期だと思います。同時に、このたくさんの、ほんとうにたくさんの人たちの心のケアについて、誰かがちゃんと考えて行動を起こしているのか?何万人、もしくは何十万の人たちと会って、それぞれの話を聞き、感じる苦しみはどんなしくみで心にわき起こるのかを説明し、どんなことを試したらその喪失感を乗り越えられるのか、という専門的なアドバイスができる人たちは、日本にどれくらい存在するのか?

心のサポートなしには、被災地が主導するべき復興が外部からの押し付けになってしまうのではないか? 今現場で、悲しみを乗り越えてばりばりと復興のために働いている人たちが、いつまでも心のケアなしに働き続けることを期待するのは間違っているのではないか?

どなたか、心のケアを活動の中心にしている団体をご存知でしたら、ぜひ教えてください。

赤十字や企業、官公庁を通じた寄付金がかなりの額集まっている今、ロンドンで秋に企画しているチャリティー・オークションでの義援金を、カウンセリングの専門家集団や養成団体に直接送る事を考えはじめています。実務の出来るカウンセラーが足りないなら、学科やコース、ワークショップなどを通して専門家を養成する必要があるのではないか?そのための資金が、税金の使い道のひとつにまだ数えられていないなら、どこかから捻出しなければいけない。

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昨年の春ごろ、わたし自身はやっと「カウンセラーと会わなくても、やっていけるかも」と思いはじめ、写真の森を「復活の森」と名付けました。それでも、相談することはたくさん残っていることにも思い当たり、日々を人間らしく生きる道案内として、今でもひと月に1度は通っています。この森を通るたびに車の窓を全開にして深呼吸をする。どこか、心の隅に無理を強いていなかったか、考えながら走ります。

今から、日本にはたくさんの「復活の森」が必要になってくると、切実に思います。被災者の心のケアが一段落する頃(どれくらいかかるのか、わからないけれど、、)に、現場で育ったカウンセラーが全国に散って専門知識を使える場ができて、多くの人がバランスを考えた生き方について学べたら、、、と思うのです。