瀬戸内の穏やかな気候で育ちスキーを体験することなく今に至ったので、ほんものの樹氷を見た事がありませんでした。リヒテンシュタインを出発する朝、外に出ると冬木立に氷の花が咲いていた。バスと列車を乗り継いでスイス南部へ旅する途中、窓に張り付いて景色を眺めました。
Monthly Archives: January 2009
光と影のワークショップ
オーストリアとスイスの国境のはざまにある人口3万7千人の小国、リヒテンシュタイン。冬は雪に覆われるこの小さな国に、経済と建築の学部だけを持つ大学があり、1930年代まで綿織物の工場だった建物を改築した気持ちの良いキャンパスがあります。東京芸大と提携校になっている建築科では毎年、留学生を交換しているのだそうです。
この大学で、毎年1月の始めに建築以外の分野から講師を招いてワークショップをするプログラムがあり、演劇家、グラフィック・デザイナー、彫刻家、テキスタイル・デザイナー、印刷の専門家、ミュージシャンなどと混ざってわたしも課題を出しました。「Light Made Tactile」というタイトルで「空間の中で光を感じ、それを増幅して他の人と分かち合うための装置をデザインして、作る」という内容。建築科の学部生、院生に混ざり、リヒテンシュタインにもう一校あるアート・スクールから若い予備校生たちが3人加わり、年齢も国籍も言語もまざった16人の学生との7日間でした。
学生は最初の数日で誰かとシェアしたい「光の効果」を発見し、それを再現する実験をする。そのテストの途中でだんだんと最終的にデザインするものの姿が見えて来て、成果物はいろいろなアプリーチから違ったものが出来上がりました。
小さな部屋に仕込まれた舞台を作ったグループは、椅子にカバーをかけ音楽も選んでリラクゼーションの空間を作った。近くの山から竹をたくさん切って来て、アトリエの中央に巨大な照明器具を作った学生。手で持ってビーズを転がして遊ぶ照明を精緻な設計とレーザーカットで作った二人組。スクリーンに影を写すパフォーマンスの道具もあった。コンセプチュアルで面白かったのが、光だけに焦点をしぼって校内を歩き回るためのゴーグルと、地図のセットを作ったアムステルダムからの大学院生たち。彼らは同じコースを普通に撮影したものとこのゴーグルをつけた2つのムービーを同時に見せ、気づかない場所にふわっと浮き出る光の反射や建物がもつ陰翳の楽しさを、そこで毎日過ごす人たちに教えたのでした。
わたしの役目は最初に光が空間にどんな働きかけをするかという例を挙げ、少しだけ建築やアートやデザインのサンプルを見せて「もっと楽しくなるよ」と学生のイマジネーションのスイッチを入れる。学生がアイデアを話し始めたら脳の中にあるものを見せて!スケッチとかモデルにならない?まだ、やりたい事がよく分からないけど、、、と具現化をうながし、実際のデザインが始まったら「余分な要素は『光』に集中するさまたげになる!」とディテールのリファインを勧める。そして、ゴールの見え始めたプロジェクトごとにどんなプレゼンが一番効果的か考える手助けをする。
「光を感じる」には冬のアルプス地方は適していないかも?と行く前は心配していたのですが、雪と青空と霧との壮大なショーを延々やっているようなロケーションで、学舎も古い木の梁とミニマムな仕上がりの改築部分のコントラストが気持ちよい場所。わたしにもスイッチが入ってカメラを手放せず、たくさんの光と影の写真を撮ったのでした。
透ける箱/Kunsthaus Bregenz
霧にけむる湖畔のBregenz駅に降り立つと、行く手に目指す建築が見えました。伝統的な石やレンガの町並みの中にはめ込まれた、不思議な透光性を持つ箱。曇り空とガラスの境界があいまいにかすむ。近づくと、中に構造を隠し持つ皮膜がだんだんと見えてきます。ピーター・ズントーの建築を訪ねるのはこのKunsthausが初めてです。
晴れ間が見えたり、視点の角度を変えると、ガラスが空を映し立体感を持ち、中にある躯体の存在が見えなくなります。夏の日差しや晴れた日なら、遠景でも光を反射してすっきりと矩形なのだろうと想像する。
建物の中に入ると、内側からはもっとはっきり「光の箱」でした。地上階は壁面からの光をたっぷり受けた天井の高い空間、2階と4階は天井ガラスの上にある照明と壁面からの外光の両方をガラスで受けて展示場に光を拡散する空間。3階だけは、ほぼすべて人工的な光で制御された空間。
各階と階段を行ったり来たりして、日暮れの頃の外光と照明のつくりだす変化の中に身を置いてみた。だんだんと外光が弱まり、宵の青い色に変わっていく。そして皮膜の中、フロアの下あたりに埋め込まれたスポットからの光がはっきりと影を作り始める。この40分ぐらいが、この建築をいちばん楽しめる時間だったのではないかと思います。ちょうどやっていたベルギーのアーティスト、ヤン・ファーブルの展示はわたしは好きではなかったけれど、2時間のあいだ建物のなかをゆっくりと歩きまわり、ベンチに腰掛け、階段を上がったり降りたりして飽きることはありませんでした。室内の光は決して展示を邪魔するような光ではなく、ほんわかやんわりと床に届く光。微妙なグラデーションを見せる天井の存在はわたしにとっては圧倒的でした。
日が暮れると、外から見た建築の表情が全く違っていました。建築を夜の闇に浮かび上がらせているのは演出された光ではなく、展示品を照らす照明が外に漏れているもの。昼間に外光を拡散して室内に導いていた皮膜が、今度は中の出来ごとをやんわりと外に伝える。
もっともっと眺めていたかったけれど、気温がマイナス5度だったので、写真を撮る手が凍える前に帰路につきました。
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スイスとオーストリアの国境にある小国リヒテンシュタインで、国立大学の建築科の学生にオランダやフランスからの交換留学生を交えた一週間のワークショップをやっています。テーマは「Light Made Tactile」。空間の中で光を感じ、増幅させ、そこで発見した「効果」を他の人と分かち合うための装置を作る課題。このKunsthaus Bregenzの訪問は、このテーマの延長でもあります。
賀正
あけましておめでとうございます。
なんだか荒波の立ちそうな2009年の始まりですが、そんな時はむだに逆らわず、波間をころころと転がって、日の当たる岸辺に打ち上げられる日を待ちたいと思います。
あれ、このポストは前になかったのでは?と気づいてくださった読者の方、、、はい。年明けすぐに海外遠征をしていたので、やっと落ち着いて仕事を始め、新年のご挨拶が少し遅れました。でも、年賀状を差し挟むのはやはり1月1日にしよう、、、と思いまして。
実はあまり知られていませんが、このdesign-hugのブログにはコメントができます。 タイトルをクリックして、一回分のポストをメインにしたページを開くと、下にコメント欄が出てきます。この機能はなかなか見つけてもらえないようで、コメントがぜんぜん入らないのがちょっと寂しいなあ、、、と昨年は思ってましたので、よかったらコメントしてください。ブログを続ける励みになりますので。
今年もよろしくおねがいします。