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Monthly Archives: December 2008

毎日の生活で使う道具は、それによって自分が啓発されるようなものが理想なのでは?と思うようになりました。使っていて妥協がなく機能的なのはもちろん、道具によって動きが洗練されたり、にっこりできたり、気持ちがあたたかくなったり、さらには道具を通じて新しい価値観を持てたとしたら素晴らしいと思うのです。

ホンダの「insight」に乗り始めて1年と少し経ちますが、このハイブリッド車にわたしはずっと啓発されている感覚があります。


なにしろ燃費が良い。これは、その一点のために技術が投入され独特のハイブリッド仕様が生まれたのだから当然だけれど、以前に運転していたサーブと比べガソリン代が三分の一以下になりました。上手に運転すると、リッター25キロ以上走るのです。渋滞の街中ですらリッター17キロより落ちる事はない。

「上手に運転する」というのは肝心で、街中ではこれが燃費の良さを大きく左右します。急発進しない、無理な加速をしない、出来るだけエンジンブレーキを使う、高速でも110キロ以上は出さない、、、などなど。要するに気の急いた運転をやめ、鷹揚にエレガントに運転すると一番燃費が良いのです。車が割り込んできそうな時、以前はアクセルを踏み込んで車間を詰めていたのを、今では「どうぞー」と入れてあげて、速度を落としたぶんバッテリーをチャージする。

2人乗りのコンパクトさも車高が低いデザインも、必要最小限にきりつめられた付属の機能やインテリアすら、すべて軽量化と空力で燃費を上げるためだと思うと説得力があります。サイドミラーを電動でたためなくても、降りて手で押せばカンタンに閉じるのだし。

無駄なものをそぎ落とし、なるべくガソリンを使わない。どんなチャンスも逃さずバッテリーチャージして、そのアシストで少しでも遠くまで走りたい。けれど、スタイリッシュでいたいし、車を走らせる「楽しみ」も妥協したくない。運転するほど、設計者の意図がはっきり伝わるこの車は、間違いなくわたしのものの考え方に影響を与えています。

環境に悪いのはわかっているけれど、ないと不便な車。この「必要悪」を買い替える時、ポジティブな選択が可能だったし、これを選んだことで「意思ある方向」に一歩、進んだ実感がある。毎日、自分の行動を少しずつ気をつければ、積み重なると資源を節約できる事を1/3に減ったガソリン代で体感しているから。

車ですら、一歩進めることは可能なのだから、毎日の行動のたくさんの場面で、環境に良い選択を選びとることがもっとあるのではないか。さらには、デザイナーとしてそういう意図を持って製造に関わったら、使用者に「出来ることはある」というメッセージを送れるかもしれない。

、、、と、この最後のところを話したくて、insightの良さを説明しはじめると、つい運転してていかに楽しいかということを熱く語ってしまって「安積さん、エンスー?」と言われたことがあるのですが、えっと、自分では違うと思っています。ちょっと違いますよね??

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現在、ロンドンのScience Museumで開催中の「Japan Car」展にそのinsightが展示されています。英国に250人いるこの車のオーナーとして、これはちょっと嬉しいですね。原研哉さんがキュレーションを手がけ、阪茂さんが会場構成をしているこの展示会では小ささや環境に配慮した日本の車が展示され、その思想とユニークなアプローチが紹介されています。こうやって一堂に見渡すと、日本の産業が環境問題に先駆け、これからも世界に貢献できる可能性のようなものが見えて来て、勇気づけられます。ちいさなものへの愛と大きなビジョンが一緒に歩む未来。

このinsightは日本ではほとんど見かけなくなっているようですが、来年に発売される新insightは量産仕様のようだから、価格も落ち着いているのかな?車高はプリウスよりもかなり低いようだし、きっと運転の楽しさも先代insightの思想を引き継いでいることと思います。