透ける箱/Kunsthaus Bregenz
霧にけむる湖畔のBregenz駅に降り立つと、行く手に目指す建築が見えました。伝統的な石やレンガの町並みの中にはめ込まれた、不思議な透光性を持つ箱。曇り空とガラスの境界があいまいにかすむ。近づくと、中に構造を隠し持つ皮膜がだんだんと見えてきます。ピーター・ズントーの建築を訪ねるのはこのKunsthausが初めてです。
晴れ間が見えたり、視点の角度を変えると、ガラスが空を映し立体感を持ち、中にある躯体の存在が見えなくなります。夏の日差しや晴れた日なら、遠景でも光を反射してすっきりと矩形なのだろうと想像する。
建物の中に入ると、内側からはもっとはっきり「光の箱」でした。地上階は壁面からの光をたっぷり受けた天井の高い空間、2階と4階は天井ガラスの上にある照明と壁面からの外光の両方をガラスで受けて展示場に光を拡散する空間。3階だけは、ほぼすべて人工的な光で制御された空間。
各階と階段を行ったり来たりして、日暮れの頃の外光と照明のつくりだす変化の中に身を置いてみた。だんだんと外光が弱まり、宵の青い色に変わっていく。そして皮膜の中、フロアの下あたりに埋め込まれたスポットからの光がはっきりと影を作り始める。この40分ぐらいが、この建築をいちばん楽しめる時間だったのではないかと思います。ちょうどやっていたベルギーのアーティスト、ヤン・ファーブルの展示はわたしは好きではなかったけれど、2時間のあいだ建物のなかをゆっくりと歩きまわり、ベンチに腰掛け、階段を上がったり降りたりして飽きることはありませんでした。室内の光は決して展示を邪魔するような光ではなく、ほんわかやんわりと床に届く光。微妙なグラデーションを見せる天井の存在はわたしにとっては圧倒的でした。
日が暮れると、外から見た建築の表情が全く違っていました。建築を夜の闇に浮かび上がらせているのは演出された光ではなく、展示品を照らす照明が外に漏れているもの。昼間に外光を拡散して室内に導いていた皮膜が、今度は中の出来ごとをやんわりと外に伝える。
もっともっと眺めていたかったけれど、気温がマイナス5度だったので、写真を撮る手が凍える前に帰路につきました。
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スイスとオーストリアの国境にある小国リヒテンシュタインで、国立大学の建築科の学生にオランダやフランスからの交換留学生を交えた一週間のワークショップをやっています。テーマは「Light Made Tactile」。空間の中で光を感じ、増幅させ、そこで発見した「効果」を他の人と分かち合うための装置を作る課題。このKunsthaus Bregenzの訪問は、このテーマの延長でもあります。