Archive

道具・product

このポストは今からほぼ8年前、2010年の11月に書きました。2018年7月に出版された『MUJIが生まれる「思考」と「言葉」』という書籍で良品計画の金井政明さんが紹介してくださったので、しばらくトップに置きたいと思います。

こうやって読んでくださる方、紹介してくださる方がいるのが嬉しく、しばらくぶりにまた書こうと思います。

***

ふと目にしたモノや会話から『そうか、時代の変わり目に立っているんだなぁ』と思う事が、最近よくあります。

環境資源の限界が広く知られるようになり、今までのように残りを気にせず使うような産業や生産、消費のありかたを続けるのは無理があると、多くの人が考え始めた。そして、人は限られた資源をどう使って次の世代に残すか、今までとは違うスピードで進む産業とどう共存し、何を選び取って生きるかを考える場所に立っている、、、少なくとも、たくさんの人がその事に気付き始めていると思うのです。

それから、スーパーの買い付けなどに象徴される「買いたたき」による低価格競争。英国のミルク産業でも起こっていることですが、設備に投資をして効率良く大量に商品を送り出せる会社だけが生き残り、効率以外の価値を守ろうとしている良心的な会社は淘汰されてしまうような現状。これは先に挙げた環境への配慮とは逆行する、大量にエネルギーを使うことになる事業形態が生き残るという、不本意な事態を引き起こしています。

そんな矛盾も起こっているいろいろな流れの中で、岐路に立っている「今」をよく現していると思うのがマッチです。

わたしはスタジオでも家でもお香を焚くし、自宅での夕飯はキャンドルの灯りで食べるのでマッチは日常の必需品です。そのマッチの、頭の部分が小さくなっている?と思い始めたのは2年ぐらい前だったと思う。それが、あっと言う間にどんどん小さくなり、最近のはこんな感じです。

比較すると分かりやすい。左は15年ぐらい前のマッチ。真ん中が4年前ぐらい。右がごく最近のものです。

この変化に、考えさせられました。

低価格競争が広がり、今まではあまり考えずに使っていた頭薬の原料すら、切りつめないと原価割れを起こすようなことが現場で起こっているのではないか。買い付ける側が値切りに値切った結果、製造元で「これでは儲けが少ないから、この素材を少なめに付けてみる?」ということになり、試作したらこれでもちゃんと火が点いた。そうやって低価格を実現し取引を勝ち取った会社を見習い、他社も頭を小さくしていく。そしてこの頭が今のスタンダードになったのかもしれない。

使い比べてみると、頭薬が小さいぶん発火の炎が短いので、気をつけて柄の部分に火を移さないといけないけれど、すぐに慣れて不便は感じない。そうか、今までは余分な材料を炎にして燃やしていたのか、、、と、マッチが発明されて以来の長い年月のことを考えてしまうほどです。そして、この小さな頭のマッチがこれからの標準になって、もう大きな頭のマッチを見ることはないのだろうな、これからはそんな社会に生きていくのだろうな、と。

面白いのは、この変化があまりに短期間に起こったので、今でもマッチを描こうとすると、従来の大きな頭の絵になること。下の写真は、この夏にベルギーのスーパーで買った、まさにそんな変化のまっただ中にあるマッチ箱です。

将来の子供たちは、小さな頭のマッチの絵を描くようになるのでしょうか?わたしたちは、資源を浪費した過去への反省として、大きな頭のマッチを思い出すのでしょうか?

毎日マッチを使う身としては、小さな頭での発火を柄に移す、ちょっとしたコツを身につけたことを嬉しく思ったりしています。冬に、日が暮れたらカーテンを閉めて昼間の熱を逃がさないよう気をつけるとか、厚手の鋳物の鍋で余熱を上手に使って料理するとか、ひと昔前には「節約」として普通に気をつけられていたことは、実は環境にも優しかった。暮らしの小さなディテールや「おばあちゃんの知恵袋」をひとつひとつ思い出し、今まで忙しさの中で走り飛ばしていた小さな「コツ」を身につけ直すのが、今の時代に必要なことではないかと、マッチを見つつ思うのでした。

毎週末のサイクリングにこの煎茶セットと保温ポットを積んで出かけます。

冬にはサイクリング後の冷えた体を暖めるため、夏は乾いた喉をうるおすために、実は煎茶がいちばん幸せな飲み物なのじゃないかと近頃思う。ちょっと甘いものを食べたい時にも、さっぱりした煎茶が一番なのです。

煎茶には熱湯よりも少し冷めたお湯がちょうどいいので、保温ポットで半日ほど経った湯はぴったりです。このセットは急須の中に湯のみが2個納まり、茶葉を入れる缶とガーゼの布巾がセットになって、麻の袋に小さくまとまります。紐を少しゆるめれば、缶の上にスイーツを入れる空間もできる。

出がらしの茶葉は水筒の水でくるくると流して草地の肥料にしてしまい、テーブルクロスにしたガーゼ布で急須と湯のみをさっと拭いてまた袋にしまう。ガーゼ布は洗っても2時間ほどでからからに乾くのでとても便利。保温ポットの湯が冷める距離を旅行する時は登山用の小さなガスコンロとケトルも持って行きます。

街ではカフェに立ち寄るのが楽しみだけれど、どんなカフェでもいいわけではない。インテリアや店員さんの雰囲気、かかってる音楽を選んで入りますよね?田園の真ん中でお茶をする時も、どんな道具でどんな風に飲むかによって幸せの度合いがずいぶん変わる気がします。

シンプルな波佐見の磁器と中川政七商店のファブリックで作られたこのセットは、どんな場所でも優雅なお茶の時間を作れる、最近の一番のお気に入りです。

**

あまりによく使うし値段も手頃だったので、贈り物にしたいなと思うのだけど、ミッドタウンのThe Cover Nipponで1年以上前に買って以来、もう2度と見ることはありません。 中川政七商店のHPにもないようだし、、、。誰のプロデュースだったんでしょうか?

ロンドンの郊外Enfieldで毎年ある「Pageant of Motoring」というオート・ジャンブルに行きました。車やバイク、自転車に関する古いものを中心にストールが立ち並ぶガラクタ市です。以前お伝えしたBeaulieuのオート・ジャンブルが海外からも多数出店しているのと比べると小規模なものですが、出店者の多くがその場でキャンプをしていて、売り場の片隅にキッチンをしつらえて料理しているのを見るのが楽しく、今回は「移動キッチン」を集めてみました。


基本はこれですね。コンロにケトル。風をよけるためにテントの陰で。そして、お茶の用意は何よりも重要です。ティーバッグや砂糖、ミルクもコンパクトにまとめて持ち運ぶ。


小さなコンロでも立派に料理できてます。手前が商品、奥にキャンピングカー、その中間が売り場兼キッチン。


コンロもふた口あると、湯を沸かしながら料理できる。これは小さなガズボンベに繋がれているタイプ。


この道具屋さんのキッチンからもいい匂いがしている。使いやすそうな調理用具が商品と一緒に吊られているのも雰囲気です。


バンの荷台に造り付けられたキッチン。タイヤのでっぱりにうまく乗っています。買い物かごのシェルフも使えそう。


これはキッチンではないけれど、湯を沸かす機能のついたピクニックセット。コンパクトにまとめながらも、エレガントさを忘れていない。 こういう機能美と機動性が好きです。

わたし自身は、小さな煎茶セットと保温ポットを持って出かけてお茶をいれるぐらいで、調理するようなキャンプをしたことがないのだけど、身軽なキッチンにとても惹かれる。小さくなるカップとか、平たくなるコーヒー・ドリッパー、重なるワイングラスなんかをついつい買ってしまうのは、いつかその道具たちを使って外で食事するのを夢みているようなのです。

I visited an autojumble, named Enfield Pageant of Motoring.  I am fascinated by mobile kitchens, set at corner of stools.  I love their nomadic lightness, basic functionality and joy of eating these kitchens provide.

毎日の生活で使う道具は、それによって自分が啓発されるようなものが理想なのでは?と思うようになりました。使っていて妥協がなく機能的なのはもちろん、道具によって動きが洗練されたり、にっこりできたり、気持ちがあたたかくなったり、さらには道具を通じて新しい価値観を持てたとしたら素晴らしいと思うのです。

ホンダの「insight」に乗り始めて1年と少し経ちますが、このハイブリッド車にわたしはずっと啓発されている感覚があります。


なにしろ燃費が良い。これは、その一点のために技術が投入され独特のハイブリッド仕様が生まれたのだから当然だけれど、以前に運転していたサーブと比べガソリン代が三分の一以下になりました。上手に運転すると、リッター25キロ以上走るのです。渋滞の街中ですらリッター17キロより落ちる事はない。

「上手に運転する」というのは肝心で、街中ではこれが燃費の良さを大きく左右します。急発進しない、無理な加速をしない、出来るだけエンジンブレーキを使う、高速でも110キロ以上は出さない、、、などなど。要するに気の急いた運転をやめ、鷹揚にエレガントに運転すると一番燃費が良いのです。車が割り込んできそうな時、以前はアクセルを踏み込んで車間を詰めていたのを、今では「どうぞー」と入れてあげて、速度を落としたぶんバッテリーをチャージする。

2人乗りのコンパクトさも車高が低いデザインも、必要最小限にきりつめられた付属の機能やインテリアすら、すべて軽量化と空力で燃費を上げるためだと思うと説得力があります。サイドミラーを電動でたためなくても、降りて手で押せばカンタンに閉じるのだし。

無駄なものをそぎ落とし、なるべくガソリンを使わない。どんなチャンスも逃さずバッテリーチャージして、そのアシストで少しでも遠くまで走りたい。けれど、スタイリッシュでいたいし、車を走らせる「楽しみ」も妥協したくない。運転するほど、設計者の意図がはっきり伝わるこの車は、間違いなくわたしのものの考え方に影響を与えています。

環境に悪いのはわかっているけれど、ないと不便な車。この「必要悪」を買い替える時、ポジティブな選択が可能だったし、これを選んだことで「意思ある方向」に一歩、進んだ実感がある。毎日、自分の行動を少しずつ気をつければ、積み重なると資源を節約できる事を1/3に減ったガソリン代で体感しているから。

車ですら、一歩進めることは可能なのだから、毎日の行動のたくさんの場面で、環境に良い選択を選びとることがもっとあるのではないか。さらには、デザイナーとしてそういう意図を持って製造に関わったら、使用者に「出来ることはある」というメッセージを送れるかもしれない。

、、、と、この最後のところを話したくて、insightの良さを説明しはじめると、つい運転してていかに楽しいかということを熱く語ってしまって「安積さん、エンスー?」と言われたことがあるのですが、えっと、自分では違うと思っています。ちょっと違いますよね??

***

現在、ロンドンのScience Museumで開催中の「Japan Car」展にそのinsightが展示されています。英国に250人いるこの車のオーナーとして、これはちょっと嬉しいですね。原研哉さんがキュレーションを手がけ、阪茂さんが会場構成をしているこの展示会では小ささや環境に配慮した日本の車が展示され、その思想とユニークなアプローチが紹介されています。こうやって一堂に見渡すと、日本の産業が環境問題に先駆け、これからも世界に貢献できる可能性のようなものが見えて来て、勇気づけられます。ちいさなものへの愛と大きなビジョンが一緒に歩む未来。

このinsightは日本ではほとんど見かけなくなっているようですが、来年に発売される新insightは量産仕様のようだから、価格も落ち着いているのかな?車高はプリウスよりもかなり低いようだし、きっと運転の楽しさも先代insightの思想を引き継いでいることと思います。


Vitra Design Workshopに持って行ったパタゴニアのサンダルは、正解でした。コルクの底が足に馴染んで脱げにくく、底がしっかりしているので砂利道や草原も歩きやすい。空気が通って涼しく、朝露の冷たさなんかもちゃんと感じられる。感触が楽しいので、わざと草原をつっきって歩いたり。

イギリスの森では夏でも「muddy boots」を履かないとどろんこになるから、その感覚で厚底のトレッキング靴を持って行った時は、同じ場所でも歩いた印象がずいぶん違った。スニーカーの底が薄すぎた年、ビーチサンダルで指の股にマメを作った年などを経て、4度目にして初めて、ふさわしい足元で一週間を過ごしたなー、と思います。

ロンドンに戻り、まだ枯れ草のついているこのサンダルを履いてあの空気を懐かしんでいるのだけど、どうもしっくりこない。スタジオでは足元が冷えて落ち着かないし、外を歩くと横滑りする。なぜ?と思ったら、歩く速度がまったく違っていたのでした。あんまり治安のよくない仕事場の近所では、せかせかと先を急ぐ歩き方になっているみたい。

場所と靴の関係は、歩いている表面の質感や温度や湿度だけではなく、どんな気分で歩いているかも関係するのですね。まさに夏休みの足元だったんだ、このサンダル(仕事してたんですけどね)。

I took this woven sandal to Boisbuchet, at Vitra Design Workshops this summer. It was so appropriate and I had different experience from other type of shoes I took early years. Thick soled tracking shoes did not give me nice moisture impression from walking on wet morning grass fields. So, I walked wherever not surfaced, enjoyed temparature, texture and hairy grass on my feet.

Now, I am back to my studio in London, wear these shoes and miss the atmosphere of Boisbuchet, but they do not react in the same way – I feel cold from foot in my studio, also slippery when I walk neighbourhood in this pair. Why? I realise that speed of walking is much faster in town, esepecially in rough quarter of London. I am not totally relaxed here, so this pair of sandales are for special occasion. It was perfect at Boisbuchet.

イギリスの銀行で口座に関するエラーが続き凹んでるんですが、気を取り直して先月帰国してた時に行ったお気に入りの場所について書きます。

ナガオカケンメイさんがやっているD&DEPARTMENT。東京店に行きました。数日前に「情熱大陸」に出たようなので、今たくさんの人の噂にのぼって来客がひっきりなしかもしれないですね。

全国の埋もれたグッドデザインを発掘して蘇生させる独自のコンセプトはすでによく知られているし、わたしが紹介するまでもないと思うのですが、ここの醍醐味はレストランに詰まっていると思った。ぜひここでお昼を食べたり、お茶をしたりしてみてください。とっても懐かしい、誠実で温かく夢見がちだった頃の空気を思い出します。


カトラリーや食器も「品のある」業務用の、とても使いやすいものなのだけど、何にもまして美味しいこと! 岩手に自社の農園のあること、スタッフがそこで農作業の実習をしたりする事を知って、納得しました。下の写真はドライカレー。


シフォンケーキとメープルシロップのアイスクリームも満点。サイズの違う角砂糖が混ぜて入れてあって、好きな量を選べる。こういう細やかな気遣い、すみずみまで清潔なレストランと調理場、気持ちの良い店員さん達。うーん。志の高い人のまわりには、同じ気持ちを共有する優秀な人たちが集まるのだな、、と唸ってしまった。

規模の小さな会社の、心のこもった業務や商品がなつかしい。そういうものに触れると、幸せな気持ちになる。そういうマインドの感じられる仕事だけを集めているD&DEPARTMENTでは、だからこんなに心安らぐ空気が流れているのですね。良質のアルチザンの結晶とでも呼びたい、オアシスのような場所。デザイナーとして日々誰とどんな仕事をしていきたいか。「D&DEPARTMENTに置いてもらえるような仕事をしたいなー。」と、目標のようなものが出来たのでした。

それにしても、手のつけようのない程大きくなって、カスタマー・サービスに血の気の通わなくなった会社とは付き合いたくないと思う。できれば商品を買いたくないし、無責任なサービスに出くわすのも不愉快。どこかに、誠実でなつかしい空気の漂う銀行はないかなぁ、、、。


のびのびとしたドローイング。おちゃめなで色鮮やかな手紙。
人生楽しんでいる感じですね、いいですねー。家にも羽根が付いてる!?と思ったら、ちがった。天使の羽根が家の向こうに見えてるのね。。。


Triennaleでやっていたフランスのカトラリーの会社CHRISTOFLEの展示で。今までここの高級カトラリーを特にいいと思った事はなかったのだけど、こういう感じのコラボレーションだったのか、と見直した。製品の「おおらかさ」というのは、こんなふうにして生まれるのね。なるほど、、、。