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善きしごと・artisan

8月の末にAXISでフォーラムをやった時に出会ったデザイナーのひとりに「イギリスを観光するなら、外せない場所は?」と訊かれたのですが、その時に「design-hugのブログで書くから」と答えてから2週間以上経ちますね。すでに旅立ってしまったでしょうか?イギリスでもこれを読めていることを祈って。


Kettle’s Yard。ケンブリッジの中心街から少しだけ北にあるアートギャラリーの隣に、1930年代にテート・ギャラリーのキュレーターだった夫妻の住まいとアートコレクションが残っていて、それが一般公開されています。わたしはここが大好きで、これは英国の宝だと思っています。

入り口は見逃してしまうほど素っ気ない小さなドアで、ぶら下がっているリングを引っ張ると係の人がドアを開けてくれます。 まず迎えてくれるのはカンディンスキーの版画。そして、夫妻が何十年もの年月をかけて集めたというビーチで拾った「限りなく球に近い石」たち。小さな彫刻と庭の花と、貝殻やガラス玉と一緒に明るい窓辺に飾られています。もうここで、ため息が。


トイレと洗面台の間にベン・ニコルソンの版画。 階段下の小さな空間にピアノがあり、その上にはさりげなくぽつっと、ブランクーシ。。。


コーンウォールの風景画家ブライアン・ピアースがたくさんコレクションされ、ロジャー・ヒルトン、バーバラ・ヘップワース、ナウム・ガボ、ヘンリー・ムーア、ルーシー・リー。

小さなコッテージ3棟を繋げて改築し、1930年代後半のモダン様式でギャラリーとライブラリーを加えた住まいに、そのコレクションと小石や植物の種、金属の破片、ヴィクトリアンのガラス器、ナヴァホの織物などが一緒に飾られている。好きな人だったら、宝探しのような訪問になると思います。


この住まいとアートコレクションが、当時の什器そのままケンブリッジ大学に寄贈され無料で公開されているという、そのスピリットおおらかさ。インテリアを撮影したい人は3ポンドを払い入り口で許可を得ますが、「本当に3ポンドでいいんでしょうか?」といつも思います。何度行っても「帰りたくない、ここに泊まりたい。」と思う場所なのです。

Have a good journey.

イギリスの銀行で口座に関するエラーが続き凹んでるんですが、気を取り直して先月帰国してた時に行ったお気に入りの場所について書きます。

ナガオカケンメイさんがやっているD&DEPARTMENT。東京店に行きました。数日前に「情熱大陸」に出たようなので、今たくさんの人の噂にのぼって来客がひっきりなしかもしれないですね。

全国の埋もれたグッドデザインを発掘して蘇生させる独自のコンセプトはすでによく知られているし、わたしが紹介するまでもないと思うのですが、ここの醍醐味はレストランに詰まっていると思った。ぜひここでお昼を食べたり、お茶をしたりしてみてください。とっても懐かしい、誠実で温かく夢見がちだった頃の空気を思い出します。


カトラリーや食器も「品のある」業務用の、とても使いやすいものなのだけど、何にもまして美味しいこと! 岩手に自社の農園のあること、スタッフがそこで農作業の実習をしたりする事を知って、納得しました。下の写真はドライカレー。


シフォンケーキとメープルシロップのアイスクリームも満点。サイズの違う角砂糖が混ぜて入れてあって、好きな量を選べる。こういう細やかな気遣い、すみずみまで清潔なレストランと調理場、気持ちの良い店員さん達。うーん。志の高い人のまわりには、同じ気持ちを共有する優秀な人たちが集まるのだな、、と唸ってしまった。

規模の小さな会社の、心のこもった業務や商品がなつかしい。そういうものに触れると、幸せな気持ちになる。そういうマインドの感じられる仕事だけを集めているD&DEPARTMENTでは、だからこんなに心安らぐ空気が流れているのですね。良質のアルチザンの結晶とでも呼びたい、オアシスのような場所。デザイナーとして日々誰とどんな仕事をしていきたいか。「D&DEPARTMENTに置いてもらえるような仕事をしたいなー。」と、目標のようなものが出来たのでした。

それにしても、手のつけようのない程大きくなって、カスタマー・サービスに血の気の通わなくなった会社とは付き合いたくないと思う。できれば商品を買いたくないし、無責任なサービスに出くわすのも不愉快。どこかに、誠実でなつかしい空気の漂う銀行はないかなぁ、、、。

古い自転車を集めたり、修理して乗ったりするのが趣味な人が、実は世界中にたくさんいます。で、そういう人達が集まってレースをする会、というのもある。快晴の日曜日、西南ロンドンのHern Hillにある自転車競技場でそういうレースがありました。コレクター達と、ピクニック気分で応援に来ている家族や友人が、和気あいあいと集まって。

普通の路上では乗りにくい、レース用のペニー・ファーディングをサーキットで初めて試したわたしのパートナー。作られてから100年以上経っている自転車だけど、とりあえず走れるように調整できたみたいです。


一見ふつうの自転車レースですが、参加はすべて戦前の自転車。近寄ってみると「ほんとだ古い、、」と分かる。ガレージの片隅で、こういう古い物をこつこつと修理するのが趣味な人たちが、たくさんいるのは面白いですね。そして、直したら乗って走る。


車輪が木製の「Bone Shaker」と呼ばれる自転車も登場。 たしかに乗り心地が悪そうだ。

実はわたしも、レディースのレースにちょこっと出ました。Caminargentというフランスのメーカーの1941年製のアルミフレームの自転車で。それが、今までのサイクリングやウォームアップでサーキットを何周かした時はなんともなかったのに、レースでちょっと真剣に飛ばしたら、後ろの車輪がぐらぐらに揺れてそれがハンドルまで伝わって、ものすごく怖かった。


結果はビリ!ヴィンテージ自転車ファンからは絶賛のレアなものらしいけど、「ちょいと角までパンを買いに行くための自転車だから、もともとレース向きじゃないんだよ。」となぐさめられたのでした。まぁ、マシーンの問題だけじゃなく、わたしの脚力もぜんぜんダメですが。

「銀ちゃん2号」という愛称のこの自転車で、今月末にベルギーである「レトロ・ロンド」というサイクリングに参加します。20年以上古い自転車で、服装もレトロな人のみ参加というツーリング・イベント。今度はゆっくり走ります。

新緑の京都で「河井寛次郎記念館」を訪れました。

表からは京都の町家に見えるけれど、中は深く広く、住居とスタジオと作業のための中庭と、素焼き用の竃、そして奥の傾斜に沿って登り竃がある。氏が当時仕事をして家族が暮らしていた様子そのままに保存してある貴重な場所です。


住まいと仕事場を心地よく区切る中庭。そして迫力の登り竃。手前から2番目の室から、数多くの作品が生まれたそうです。


素焼きされた陶器に釉薬をかける作業をしたスタジオ前の中庭。並んだ壷の中に釉薬。

住居部は飛騨の合掌造りの内部を思わせる、吹き抜けのあるどっしりした空間。建具や家具のディテールに民芸の重量感と京都の繊細さが同時に息づいている。


実は大学院生だった14年前に一度行っているのだけど、ほとんど印象に残っていなかった。今回あまりに感銘を受けたので「すでに28才にもなっていたわたしは、どうしてこの良さが分からなかったんだろう?」と呆れたり。たぶん、「暮らす」ことと「仕事をする」ことが一緒になっているこの心地よさを、建物の細部まで気を配ったこの住まいの暖かさを、理解してなかったのですね。若かった、、、。

河井寛次郎や浜田庄司の重厚な陶器があまり好みでない、というのは今でも正直なところなのですが、今回の訪問でそういう作品や民芸の運動の後ろにある、日々の生活を大切にする彼らの思想に触れました。バーバラ・ヘップワースのスタジオと自邸、仕事場と融合した庭などを見て受けた印象と、似ている気がします。

サウス・ケンジントンにあるVictoria & Albert Museumの2階にWrought Iron(錬鉄、または鍛鉄)のコーナーがあります。とても好きな場所。


鉄で出来た門扉とか窓の飾りは、もともとは防犯のためだったと思うけど、なんというか優雅な実用装飾ですよね。昔のものはまた、ざらっと錆びているような表面のテクスチャーが美しい。

街で見かけるこういう装飾もいいけど、こうやって美術館の一画に並ぶと、工芸品としての美しさが見えてくる。ここに来ると、どうしてこんなに落ち着くのかなぁ。

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このV&Aの鉄コーナーが好きな人には、もう一カ所おすすめの場所が。フランスのノルマンディー地方の首都ルーアンにある、Musée Le Secq des Tournellesにぜひ、行ってみてください。すごいです。4世紀から19世紀までの鉄製品が12000点集められた博物館です。特に鍵のコレクションが素晴らしい。

わたしはここでは、あまりの数の展示品に落ち着きをなくし、わーわー言いながら、コルク栓抜きとか折りたたみのカトラリーとかを丸一日かけて眺めました。

サローネに賑わうミラノ、元工場地帯Zona Tortonaで今年もいろんな素敵なスペースを見て歩きました。その中で一番のお気に入りは「Lavorazione Artistica Metallo」と看板を掲げている、この金属加工の工房「Traviganti」。

デザインの展示会をやっている大きな建物の一角に、普段と変わりなく操業している工場があって、観客はその中を好きなように歩き回れる、というとても楽しい場所です。おじさんたちがフツーに旋盤とか型押しマシーンとかを使って仕事しているのだけど、工場のあちこちに小さな展示コーナーが出来ていて、妙なものが置いてある。で、なんだこれは?ときょろきょろしていると、働いている人たちが「どうぞ、どうぞ」と招き入れて手作業の現場を見学させてくれる。

あちこちに貼られたり、壁に描かれたりしているドローイングも味がある。サローネ時期ならではの「アルティザンの生きてるミラノ」を垣間見れる場所。どれくらいの人が、この入り口に気づいて入って行ったかな?


結局1時間近く工場内をうろうろして働く人達の手元を眺め「好きなんだねー、この人、、」という視線に見送られて工場を後にした。いろいろ質問したかったんだけど、わたしのイタリア語のレベルでは到底無理でした。。。