フランスの田園地帯にある農場でVitra Design Museumのデザイン・ワークショップをやってきました。アシスタント2人と、9カ国から集まった14人の参加者と一緒に過ごした1週間。
Boisbuchet(「ブワブシェ」と発音します)と呼ばれる場所。今回で4度目なのだけど、遠くからこのお城が見えはじめるとわくわくする。泳げる湖があり川も流れていて、菜園や牧場があって馬やロバがその辺りにいる。そして、敷地内には今までのワークショップで作られたり、建築プロジェクトとして建てられた小屋や家が点々と在ります。坂茂さんの紙管の小屋もあります。
一日目の朝の工房の施設紹介。この週は建築と照明とデザインの3つのワークショップが並走して、それぞれ15人ずつぐらいの参加者。ワークショップの説明や共通の言語は英語。でもあちこちで、いろんな言葉が飛び交う。メキシコからたくさん参加していてスペイン語がいちばん優勢。次が韓国語、そしてドイツ語の順だった。日本からの参加はなし。これは初めてのことで、ちょっと淋しかったです。下は工房アシスタントの3人が機材や材料の説明をしているところ。
暑すぎたり雨が降ったりすると作業をする場所になる巨大な納屋。 下の写真は、その床に並んでいる参加者の作品の一部です。木陰にロープで吊したペンが風に揺られて模様を描く、というもの。場所と時間とそこに流れる空気を切り取った模様が美しい。
今回のワークショップは「Air Made Visible」というタイトルで、この場所に身を置いて感じた要素を、目に見えたり体験できる物や装置に置き換え、他の参加者がそれを追体験する、というテーマ。出来上がった作品をみんなで鑑賞したり触ったり遊んだりするのももちろん楽しいのだけど、そこに行き着くまでのプロセスで得られるいろいろな発見がとても大事だし、場所にふさわしい素材と形を与えると成果物がとても「心地よい」ものになることを、あらためて感じたのでした。ワークショップを通して参加者に何かを伝えられるとしたら、そういう発見の楽しさと自分の作ったもので心地よく遊ぶその快楽なのかもしれない、、、と。
たった独りのフランス人は地元出身のシェフ。腕をふるってくれ、シュークリームとかアップルクランブルとか、スイーツも今まで以上に充実していた。菜園から野菜を収穫して、これがサラダになるのです。総勢80人ほどになる朝昼晩の食事。天気がよかったので、ずっと外で食べた。ゴングが鳴ると、工房や納屋、草原や湖からみんながここに戻ってくる。
木陰で制作。出来上がったのが下の写真です。彼女はちいさな草花のデリケートな構造に魅せられて、それを拡大し、花弁の中を歩き回る虫の気分になれるような風で動くオブジェを作った。
これも作品のひとつ、籐で編まれた直径1メートルぐらいのボール。風が吹くと草の上を優雅に転がっていく。風景と一体になって、これもとても「Air Made Visible」でした。
自然の中で1週間過ごすと、帰りに寄った空港のある街Poitiersですら、ホコリぽくてがちゃがちゃした、視覚ノイズの多い場所に感じられて驚きました。スタジオに戻ってすでに4日目なのに、まだぼーっと、草の匂いや朝露が足に冷たかったあの感じを思い出している。たくさんの笑顔と語られた夢とプレゼンの時の緊張感を思い出す。写真を見ては「また、どこかで会おうね」と微笑んでしまう、Boisbuchetはそういう魔法のかかった場所です。